
あらすじ
主人公、吉岡安弘は教育教材の販売会社に勤める若者である。彼は、他人には話さない秘密を持っていた。それは、彼以外誰もいない筈のオンボロアパートに、一人だけ同居人がいる事だ。その同居人は、彼とは全く血縁のない老婆だった。老婆は、かなり認知症が進んでおり、吉岡の事も自分の事も分からない程になっていた。なりゆきに任せている内に、出来上がってしまった同居生活だったが、吉岡はこの生活に順応していた。だが、ある日、人生の歯車が動き出す。同居人が突然、姿を消し、吉岡はその出来事を切っ掛けに心のバランスを崩してゆく。やがて、不思議な世界が彼を飲み込んでゆく。
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資本主義社会と言葉で言うと、とても高度に発達した社会構造のように聞こえるんですが、結局は、貨幣価値が出来上がる前の食うか食われるかの世界とあまり変わっていないような気もするんですよね。ただ、頭から齧られるわけじゃないので、そう簡単に命までは無くならないので、食い物にされる人間は繰り返えし食い物にされ、時には、食い物にされた人間が誰かを食い物にしてを続けてゆくんですよね。私達は、これを「当たり前」のように受け止めて「生きるため」とこともなげに答えているんですけど、時々、それって本当にそういう理由なのかなって疑問が頭をもたげる時があるんですよ。本当は、誰も何故そんな事をしなければならないのか、そんな事をされなきゃいけないのか分からないまま、傷つき傷つけられ生きている。タイトルの「生餌の詩」は、そんな状況が動物の籠の中にに放り込まれる「生餌」達の状況によく似ているなと思いからつけたものです。「目的も分からないまま捧げられなければいけない、私達を含めた現代の生餌達の声を描けたらいいな」そんな思いから書きました。