
あらすじ
「しいな」という名前の人間に呼び出され、ある料理店での食事会に訪れた男性。勿論、男も「しいな」という名前は知っている。やがて、待ち合わせ場所の店には、「しいな」の知人達が集まる。彼らは、「しいな」の話題で盛り上がるが、男性は一人、その空間に違和感を感じていた。料理店の中にいる人間が話す「しいな」が、男性の持つ「しいな」の印象と、何処かズレているのだ。最初は、それ程気にならなかった男性だったが、次第に、違和感が強くなってゆき…。
作者コメント
私は昔から言葉の「音」や「文字の形」にひきよせられる傾向があります。勿論、言葉なので「意味」に強い関心は持つのですが、それとは別に「音」「形状」に対する関心もあるのです。恐らく、私の頭の中には、ビジュアル的な側面や、発声的な特徴専門の特設窓口みたいな物があるのでしょう。その中でも、かなり高ランクに位置されているのが「しいな」という名前です。漢字を当てはめても、ひらがなで書いてみても、何処か透明感があり、口に出してみれば、「SI」の次が、同じ母音の「I」に連なり、最後に「NA」とNの音を口を大きめに開いた「A」の母音で、優しくもはっきりと言葉を終わらせていて、聞く者に言葉の流れの引っ掛かりや不自然さを感じさせない…何とも美しい言葉。そんな印象を抱かずにはいられません。
…と言っても、単に、私がそう感じているというだけの話なんですけどね。
こちらの「注文の始まらない料理店」はそんな私の「しいな好き」が高じて出来た作品という一面もございます。しかし、小説の内容は、いつも通り読んでいる方に楽しんでいただける物に仕上げたいという思いで書いております。是非ご一読頂ければ、有難く存じます。